経営者が小学校教育を受けるカリキュラムを作りたい

――「人と向き合う力」を取り戻す再教育プログラム――

私はずっと思っていた。
なぜ経営者ほど、人と向き合うことが下手になるのだろうか。
なぜ役職が上がるほど、現場や社員の心が見えなくなるのか。

頭ではわかっている。
「人が大切だ」「社員が宝だ」と。
でも実際は、会議では数字、報告では結果、評価では点数。
心を語る場が、経営の世界から消えてしまっている。

その原因をずっと探してきた。
そして気づいた。
人と真剣に向き合う力は、経営学でもMBAでも育たない。
それは、「小学校の教育」にこそあったのだ。

だから私は思う。
これからの時代、経営者こそ小学校教育をもう一度受けるべきだ、と。
それは、子どもの真似をすることではない。
小学校教育の“人づくりの本質”を、経営者自身が体験し、感じ直すためのカリキュラムである。


■ なぜ経営者に小学校教育が必要なのか

小学校教育の目的は、「学力」ではない。
子どもたちが「人と関わり、共に生きる力」を身につけること。

たとえば、こんな場面を思い出してほしい。
・給食の配膳を交代でやる。
・友だちが忘れ物をしたら助ける。
・話し合いで意見がぶつかる。
・喧嘩しても、先生が根気よく仲直りさせる。

この中で、子どもたちは「人と向き合う練習」をしている。
相手を理解すること、助けること、謝ること、感謝すること――
これこそ社会の基礎であり、経営の土台である。

しかし、経営者になると、こうした“人間の原点”を忘れてしまう。
組織を動かすことが仕事になり、人と生きることを忘れる。
だからこそ、今こそ原点に戻る教育が必要なのだ。


■ カリキュラムの目的

このカリキュラムの目的は、経営スキルの向上ではない。
経営者が「人としての感性」を取り戻すことにある。

具体的には、以下の三つの力を育てる。

  1. 観察力(人を見る力)
     相手の変化、空気、沈黙の意味を感じ取る。
  2. 共感力(人に寄り添う力)
     他人の痛みを自分のことのように感じ、言葉より心で関わる。
  3. 信頼創造力(人を信じ、人に託す力)
     管理ではなく、信頼で人を動かす経営を学ぶ。

この三つを実践的に身につけるには、数字の分析ではなく、体験と対話が必要だ。
だからこそ、「小学校型経営教育カリキュラム」は、五感と体験で学ぶ形式にする。


カリキュラム構成(全6ステージ)


第1ステージ:小学校の一日を体験する

まず、経営者が実際に小学校の“日常”を体験する。
子どもたちと同じように、朝の会、掃除、給食、学級会、帰りの会――すべてに参加する。

目的は「頭をゼロに戻す」こと。
肩書きも立場も忘れ、ただ一人の“生徒”として現場に入る。

最初は戸惑う。
でも、子どもたちの素直さ、先生の温かい声、仲間との助け合いの中に、
「これが教育だ」「これが人を育てる現場だ」と感じ始める。

体験後は、全員で対話を行う。
「何を感じたか」「自分の会社に何が欠けているか」
ここで初めて、経営と教育をつなげる感覚が芽生える。


第2ステージ:先生の“まなざし”を学ぶ

小学校の先生たちは、評価よりも“観察”を大切にしている。
子どもの変化、表情、声のトーンを見て、行動の裏にある“心”を読み取る。

経営者にも、これが必要だ。
数字では見えない社員の心、
会議の沈黙に隠れた本音、
行動の裏にある「何か」を感じ取る力。

このステージでは、実際に先生の授業を観察し、
どんな目線で子どもを見ているかを学ぶ。

そして次に、自社社員の動画や現場映像を見ながら、
「今、この人は何を感じているか?」をディスカッションする。

つまり、“教育的まなざし”を経営に取り入れる訓練を行うのだ。


第3ステージ:子どもたちとの共同プロジェクト

経営者と小学生が一緒に一つの課題に挑戦する。
テーマは「学校をより良くするアイデア」「地域の役立つ活動」など。

子どもたちは、純粋な目で物事を見て、直感で動く。
一方、経営者は理屈と計画で動く。

この二つの感性が交わると、面白い現象が起きる。
経営者が子どもから“本当のリーダーシップ”を学ぶのだ。

たとえば、子どもたちは役職を決めなくても自然に助け合う。
誰かが困っていれば、自然に手を差し伸べる。
その姿に、経営者はハッとする。
「これが本来のチームワークだった」と。

この体験を通して、経営の中に“純粋な人間関係”を取り戻す。


第4ステージ:学級会型ミーティングの実践

小学校の学級会は、「全員で話し合い、全員で決める」場だ。
先生は結論を出さない。子どもたちが自分たちで決める。

これを経営の現場に取り入れる。
つまり、「トップダウンではなく、ボトムアップの会議」を実践する。

ここでのルールは3つ。

  1. 話すより、聴く。
  2. 反論より、質問。
  3. 結論より、気づきを共有する。

この学級会型ミーティングを数回実施することで、
経営者たちは“聴く力”と“受け止める力”を身につける。

社員が意見を出しやすくなり、組織が変わっていく。


第5ステージ:小学校教育法の再構築ワークショップ

小学校教育で使われている教育技法を、経営者教育に応用するステージ。

たとえば:

  • リフレクションカード(一日の気づきを言葉にする)
  • ありがとうノート(感謝を可視化する)
  • ペアトーク(二人一組で気持ちを伝え合う)
  • ロールプレイ(役割を入れ替えて理解を深める)

これらを用いて、経営会議・研修・社内面談の中に「教育的な温度」を入れていく。

大人同士でも、“小学生のように素直に対話する時間”が、
組織の関係性を一変させる。


第6ステージ:卒業式 ― 感謝と再出発

最後のステージは「卒業式」。
経営者たちが、自分の学びと気づきを発表する。

「子どもたちから学んだこと」
「社員に対してどう変わりたいか」
「これからの経営で何を大切にするか」

その言葉には、数字や理屈を超えた“人間の温度”が宿る。
涙する人も多い。

そして、卒業証書にはこう書かれている。

『あなたは、人を育てることの尊さを学びました。
これからの経営に、小学校の心を忘れないでください。』


実施モデルと展開構想

  • 対象者:経営者・幹部・次世代リーダー
  • 期間:6ヶ月(各月1回・1日体験)
  • 場所:実際の小学校、または再現環境(教育研修施設)
  • 運営:教育者+経営コーチ+心理ファシリテーターのチーム
  • 成果測定:社員アンケート/自己成長レポート/組織文化変化

目的は“数字の変化”ではなく、“人の温度”の変化。
「この人、優しくなったね」「社長が人を見てくれるようになったね」
――そう言われるような経営者を育てることが、最大の成果だ。


経営とは「教育」である

経営者が小学校教育を受けるという発想は、単なる研修ではない。
それは、“経営を教育に戻す”という宣言でもある。

経営とは、人を活かすこと。
教育とは、人を信じること。
つまり両者は同じ根を持っている。

だから、経営者はもう一度「教育者」に戻る必要がある。
教えるのではなく、共に学び、共に成長する存在として。


■ 結びに

小学校の教室には、忘れてはいけない「人間の原点」がある。
助け合い、笑い合い、時に泣き、また立ち上がる。
その小さな営みの中に、経営の真理がある。

このカリキュラムは、経営者のための“心の再教育”である。
人を数字で見るのではなく、心で見る。
部下を動かすのではなく、共に動く。
会社を回すのではなく、育てる。

そういう経営者が一人でも増えたとき、
日本の企業文化は、本当に変わる。

By yous

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