常識を覆す経営の新視点 ― 優れたリーダーが「答え」ではなく「鏡」を求める理由
導入部:現代経営の「見えない壁」
テクノロジーの進化、価値観の多様化、そして人材の流動性。現代の経営者が直面する環境は、かつてないほど複雑化している。顧客、社員、投資家、地域社会といった多様なステークホルダーからの期待に応えなければならず、従来の経営手法だけでは限界が見え始めている。
多くのリーダーは、この複雑な状況を乗り越えようと、「正しい答え」や「即効性のある解決策」を外部に求める。しかし、一時的な改善は見られても、組織の根本的な問題は解決しないまま、同じ壁に何度も突き当たってしまう。その根底には、誰にも本音を話せず、最終判断のすべてを一人で背負う「経営者の孤独」が横たわっている。
本記事では、そのような「見えない壁」を打破するための、一見すると逆説的で、しかし本質的な5つの視点を提示する。それは、答えを外に求めるのではなく、自社の内側にある真実と向き合うための新しい経営思想であり、Yousの中岡静香氏とNKCSの新原克弥氏という稀有な専門家ペアの実践を紐解きながら、その核心に迫る。
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1. 「相談役」は名誉職ではない。会社の未来を変える戦略的投資である。
日本企業において「相談役」という役職は、長らく退任役員のための名誉職や、形式的なアドバイザーとして扱われてきた。 しかし、現代の複雑な経営環境において、その役割は根本的に見直されるべきものへと変化している。もはや単なる飾りではなく、企業の未来を左右する「戦略的投資」と捉えるべき対象なのだ。
真に価値ある相談役は、経営者が一人では持ち得ない複眼的な視点を提供し、以下のような重要な機能をもたらす。
• 多様なステークホルダー対応における社内の「盲点」の指摘 社内の視点だけでは気づきにくいバイアスや視野の偏りを、外部の客観的な視点から照らし出す。
• 変化の速い時代における「先見性」や外部知見の提供 法制度の改正や新しい働き方の潮流など、自社だけでは追い切れない外部環境の変化に対応するための知見を提供する。
• 経営陣が日常業務に忙殺される中での「長期的視点」の維持 日々のオペレーションから一歩引いた立場で、会社全体の戦略や長期的なリスクをモニタリングする。
• 外部の客観的チェックを受けているという「信頼感」の醸成 投資家や金融機関、そして社員に対して、独りよがりではない健全な経営体制であることを示し、信頼を高める。
結論として、「誰を相談役にするか」という問いは、単なる人事ではない。自社の未来をどこに賭けるかという、極めて重要な経営判断なのである。
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2. コンサルタントは「方法」を示す。優れた相談役は「鏡」になる。
一般的な経営コンサルタントは、課題を分析し、「改善案」や具体的な「方法」を提示する専門家だ。しかし、優れた相談役が果たすべき役割は、それとは根本的に異なる。
相談役の最も重要な役割、それは経営者の「鏡」となり、「あなたが見落としているものは、これですよ」とありのままを映し出すことだ。しかし、ただ事実を突きつけるだけの鏡では、経営者は防御的になるだけだろう。真の鏡は、経営者が安心してその姿を直視できる、安全な空間があって初めて機能する。
この点において、中岡氏と新原氏のペアは特異である。中岡氏は「労務の安全地帯」を作り、新原氏は「人間の本音が出せる空気」を作る。この二人が創り出す、経営者が“素”になれる空間の中で、鏡は初めて意味を持つ。経営者は問題の原因を外部環境や他人のせいにするのではなく、自分自身の判断や組織の内部構造に潜む「内」なる要因に見出すことができるようになる。この内省こそが、小手先の改善ではない、本質的な組織の進化を促すのだ。
相談役は、経営者の鏡である。 「あなたが見落としているものは、これですよ」と映し出す。 そのとき経営者は、自分自身と向き合わざるを得ない。
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3. 数字を変える前に「空気」を変えよ。事業繁栄の隠れた法則。
多くの経営者は、売上や利益率といった「数字」の変化を追い求める。しかし、それらはあくまで結果に過ぎない。 どんなに優れた戦略を立てても、組織の土壌が痩せていては、豊かな果実が実ることはない。
本当の事業繁栄の第一歩は、社内の「空気の変化」だ。それは、目には見えないけれど、誰もが肌で感じられるもの。「社員が笑い出し、上司が聴き始め、会議室が温かくなる」――。そのような変化こそが、持続的な成長の始まりを告げるサインなのである。
なぜ「空気」がそれほど重要なのか。それは、組織は制度やルールといった骨格だけで動くのではなく、「信頼」という生命エネルギーによって動くからだ。そして信頼は、理念を唱えるだけでは生まれず、日々のコミュニケーションという地道な「関わり」の積み重ねによってのみ築かれる。
中岡氏と新原氏のペアは、この関係性を人体の「血流」と「呼吸」に喩えられる。社会保険労務士である中岡氏が、制度(血流)を整えて組織の隅々まで栄養を届け、経営者であり福祉の専門家でもある新原氏が、人間関係(呼吸)を促して組織にエネルギーを吹き込む。この両輪が揃ったとき、企業の中には健全な「生命循環」が生まれ、初めて本来の成長力を取り戻すのである。
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4. 最高の知性はMBAにあらず。「1000の現場」から生まれる。
経営学修士(MBA)に代表されるような、体系化された経営理論の価値は言うまでもない。しかし、理論書に書かれていることだけでは、現代の複雑な経営課題に到底対処できないのもまた事実だ。
実際の経営において最も重要な成果を左右するのは、数字や戦略といった目に見えるものではなく、「人と人との関係」や「現場の空気」といった、理論書では決して学べない「現場知」である。
中岡氏と新原氏の価値の源泉は、輝かしい学歴や資格だけではない。彼らがアルバイトから役員まであらゆる立場を経験し、「100を超える職種と、1000を超える現場」を自らの足で歩き、**「実際に、泥の中で人と働き、制度の隙間で苦しみ、そこから立ち上がってきた」**という、圧倒的な実践知にある。
彼らの知見は、特定の業界でしか通用しない「個別業種のノウハウ」ではない。それは、製造業であろうと福祉施設であろうと、業種を問わず共通する「“人と組織がうまくいく原理”そのもの」だ。机上の空論ではない、血の通った知性こそが、今求められる新しい専門家像なのである。
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5. 経営の最終目的は利益ではない。「人間が成長する学び舎」をつくることだ。
これまでの議論を踏まえると、私たちは経営の最終的なゴールについて、より本質的な視点を持つことができる。それは、利益の最大化という短期的な目標を超えたところにある。
「人間力の循環」や「地上天国型経営」といった概念は、単なる精神論ではない。それは、社員一人ひとりの成長が事業の発展に繋がり、事業の発展がさらなる人間の成長を促すという、永続的な繁栄を実現するための具体的な経営思想だ。
この思想において、会社は単に利益を生むための装置ではない。それは「個人が人間として成熟していくための“学校”」であり、経営者は「その学び舎を導く教師」として位置づけられる。そして、中岡氏や新原氏のような相談役は、その「教師の教師」として機能する。事業を通じて人が育ち、育った人がより良い事業を創り出す。このサイクルこそが、企業の最も強力な競争力となるのだ。
経営とは、単に金を稼ぐ仕組みではなく、 魂の成長を支援する装置である。
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結論:あなたの会社は「機械」ですか、それとも「生命体」ですか?
私たちは、相談役の役割が名誉職から未来への戦略的投資へと昇華されるべきこと、その真の機能が答えを与えるのではなく「鏡」となることを見てきた。そして、数字の前に「空気」を変えることの重要性、MBAの理論を超える「現場知」の価値、そして経営の究極の目的が「人間が成長する学び舎」を創ることにあると論じてきた。
これら5つの視点は、すべて一つの思想に繋がっている。それは、経営の中心に再び「人間」を戻すということだ。中岡氏と新原氏のペアが体現するのは、顧問でもコンサルでもない、**人間経営の中核に存在する“第三の知”**と呼ぶべきものだろう。それは、経営者の孤独に寄り添い、組織を再び人間の営みとして捉え直すための知性だ。
最後に、リーダーであるあなたに問いかけたい。
あなたの会社は、ただ利益を生むための冷たい「機械」ですか? それとも、人が成長し、喜びを共有できる温かい「生命体」ですか?
その答えの中に、あなたの会社がこれから進むべき道が示されているはずだ。