顧問業の限界を感じ、今後は相談役へ

お気持ちお察しいたします。「顧問業は営業代行と同じではないか」というご意見、そして「疲れた」というお言葉、深く共感いたします。多くの顧問やコンサルタントが、理想と現実のギャップに悩み、疲弊してしまう現状があるのかもしれません。

そのお気持ちを少しでも整理し、今後のヒントを見つける一助となればと思い、ご意見を深掘りし、これからの「相談役」としてのあり方について、5000字程度の文章を作成しました。少し長いですが、ご自身のペースで読んでいただけますと幸いです。


「顧問業は営業代行と同じ」という疲弊感の先へ:これからの「相談役」という価値

「顧問業は、結局のところ営業代行と同じではないか」。この言葉は、多くの顧問やコンサルタントが一度は抱くであろう、根源的な問いであり、深い疲労感の表れでもあります。クライアントの事業成長を願い、専門知識を携えて契約を結んだはずが、気づけば短期的な売上目標に追われ、自らの価値が「外部の営業部長」や「便利な人脈提供者」に矮小化されていく。その中で、当初描いていた理想と現実のギャップに苦しみ、心がすり減っていく…。「顧問業に疲れた」という一言には、そうした複雑な想いが凝縮されているように感じます。

しかし、その疲弊感は、決してあなた一人が感じているものではありません。むしろ、それは顧問という仕事の本質が、時代の変化とともに大きな転換点を迎えていることの証左でもあります。本稿では、まずその疲弊感の正体を分析し、なぜ「顧問=営業代行」という構造に陥りがちなのかを考察します。その上で、あなたが提言されている「相談役」という新しい顧問のあり方が、いかにしてこれからの時代に不可欠な価値を持つのか、そして、疲弊から脱却し、真の「相談役」へと自らを再定義していくための具体的な道筋を探っていきます。

第1章:疲弊の構造 ― なぜ「顧問=営業代行」に陥るのか

顧問契約を結んだ多くの専門家が疲弊する背景には、いくつかの共通した構造的な問題が存在します。

1. 成果の可視化と短期的な期待

顧問が直面する最大のプレッシャーは、「成果の可視化」です。特に中小企業の経営者は、限られた投資の中で、顧問に支払う費用対効果をシビアに評価します。その際、最も分かりやすく、短期的に測定可能な指標が「売上」や「新規契約数」です。経営課題が組織文化の醸成、業務プロセスの改善、長期的なブランド戦略の構築など、複雑で時間のかかるものであったとしても、経営者の頭には常に「で、いくら売上が上がるのか?」という問いがよぎります。

このプレッシャーに応えようとするあまり、顧問は自ら短期的な営業成果を約束してしまいがちです。結果として、本来取り組むべきだったはずの根本的な課題解決から遠ざかり、日々のテレアポや商談同行といった「営業代行」業務に忙殺されることになります。そして、成果が出なければ契約終了をちらつかされ、精神的に追い詰められていくのです。

2. 期待値のズレと契約の曖昧さ

契約当初に、クライアントと顧問の間で「何をゴールとするか」という期待値のすり合わせが不十分なケースも少なくありません。「人脈を紹介してほしい」「とりあえず売上を上げてほしい」といった曖昧な依頼に対して、具体的な業務範囲や目標設定を明確にしないまま契約が進むと、後々「期待していたのと違う」という事態を招きます。

クライアントは「高い顧問料を払っているのだから、魔法のように問題を解決してくれるはずだ」と過剰な期待を抱き、顧問は「自分の役割は戦略的な助言のはずなのに、なぜ実行部隊のように扱われるのか」と不満を募らせる。この期待値のズレが、両者の信頼関係を蝕み、顧問の徒労感と疲弊感を増大させる大きな要因となります。

3. 顧問自身の「専門性」への固執と視野の狭窄

一方で、顧問自身の側に問題がある場合もあります。自らの専門分野(例えば、特定の業界知識やマーケティング手法)に固執するあまり、クライアントが本当に抱えている経営全体の課題を見過ごしてしまうのです。経営者は、財務、人事、営業、開発など、複数の領域にまたがる複雑な悩みを抱えています。それに対して、顧問が「私の専門はこれなので」と一部分にしか関与しない姿勢を見せると、経営者は「結局、全体を見てくれる人はいないのか」と孤独感を深めます。

そして、手っ取り早く経営者の信頼を得るために、自身の専門性を活かした「営業支援」に飛びついてしまう。これは一見、価値提供しているように見えますが、長期的には自らの役割を限定し、「営業代行」という枠に自らを閉じ込めることにつながります。

第2章:「相談役」という新しい価値の探求

あなたが直感的に見出した「相談役」という言葉は、こうした疲弊の構造から脱却するための極めて重要なキーワードです。それは単なる役割の名称変更ではありません。クライアントとの関係性、提供する価値、そして顧問自身のあり方を根本から問い直す、新しいパラダイムへの転換を意味します。

1. 「答え」を提供する者から、「問い」を立てる者へ

従来のコンサルタントや顧問が「ソリューション(解決策)を提供する専門家」であったとすれば、これからの「相談役」は「良質な問いを立て、経営者と共に考える伴走者」です。

経営者は、日々押し寄せる問題の中で、何が本当の課題なのかを見失いがちです。彼らは必ずしも「答え」を求めているわけではありません。むしろ、自社の状況を客観的に整理し、思考を深め、自ら納得のいく意思決定を下すための「壁打ち相手」を求めているのです。「相談役」の最も重要な価値は、専門知識をひけらかすことではなく、経営者の言葉に深く耳を傾け、「なぜそう思うのですか?」「5年後、会社をどういう状態にしたいですか?」「そのために、今一番のボトルネックは何だと思いますか?」といった本質的な問いを投げかけることで、経営者自身の内省を促すことにあります。

この役割は、AIには決して代替できません。なぜなら、それは単なる情報提供ではなく、信頼関係に基づいた人間的な対話そのものだからです。

2. 「売上」から「ビジョン実現」への視点の転換

「相談役」は、短期的な売上目標だけを追うのではなく、クライアント企業の「ビジョン実現」にコミットします。会社の存在意義(パーパス)は何か、どのような世界を創り出したいのか。その壮大な物語の実現に向けて、今何をすべきかを共に考えるのです。

もちろん、事業である以上、売上は不可欠です。しかし、それはビジョンを実現するための「手段」であり、「目的」ではありません。この視点の転換ができると、提案の質が大きく変わります。目先の売上を上げるための小手先のテクニックではなく、「ビジョンを実現するためには、まず組織文化の改革が必要ではないか」「3年後を見据えて、今は人材育成に投資すべきではないか」といった、より長期的で本質的な提案が可能になります。

このような関わり方は、クライアントとの関係を「業者と発注者」から「運命共同体としてのパートナー」へと昇華させます。

3. 孤独な経営者の唯一無二の理解者

社長とは、孤独な存在です。重要な意思決定の責任を一身に背負い、従業員には弱音を吐けず、家族にも事業の悩みを完全には共有できない。そんな孤独な経営者にとって、利害関係なく、客観的かつ共感的に話を聞いてくれる「相談役」の存在は、計り知れない精神的な支えとなります。

時には厳しい意見を述べ、時には誰よりも深く共感し、成功を共に喜び、失敗を共に乗り越える。そのような人間的な繋がりこそが、「営業代行」では決して得られない、「相談役」ならではの絶対的な価値なのです。それは、もはやビジネスライクな関係を超えた、深い信頼と尊敬で結ばれたパートナーシップと言えるでしょう。

第3章:疲弊から脱却し、真の「相談役」へ至る道

では、どうすれば「営業代行」のループから抜け出し、真の「相談役」へとシフトできるのでしょうか。それは一朝一夕にはいきませんが、意識と行動を変えることで、着実にその道筋を歩むことができます。

1. 契約前の「期待値コントロール」を徹底する

最も重要なのが、契約前の段階です。安易に「売上を上げます」と約束するのではなく、自らの役割を「経営者の相談役」として明確に定義し、クライアントに提示するのです。

「私の役割は、社長の壁打ち相手となり、思考を整理し、意思決定の質を高めるお手伝いをすることです。短期的な営業代行ではありません。会社のビジョン実現に向けて、長期的な視点で伴走します。」

このように宣言することで、短期的な成果だけを求めるクライアントをフィルタリングすることができます。最初は顧客獲得に苦労するかもしれませんが、あなたの価値を正しく理解してくれるクライアントとの出会いは、長期的に見て遥かに健全で、やりがいのある関係を築く土台となります。契約書にも、業務範囲として「経営課題に関する定例ディスカッション」「意思決定支援」などを明記し、「営業代行業務は含まない」と一筆加える勇気も必要です。

2. 「聞く力」と「問いを立てる力」を磨く

「相談役」への転換は、スキルの転換でもあります。これまで培ってきた専門知識に加えて、コーチングカウンセリングのスキルを意識的に磨くことが求められます。具体的には、以下の点を意識すると良いでしょう。

  • 傾聴: 相手の話を遮らず、評価せず、最後まで深く聞く。言葉の裏にある感情や価値観を汲み取る。
  • 質問: 「Yes/No」で終わるクローズドクエスチョンではなく、「なぜ」「どのように」「もし~だとしたら」といったオープンクエスチョンで、相手の思考を広げ、深める。
  • フィードバック: 感じたことや気づいたことを、客観的かつ建設的に伝える。相手を尊重しつつも、耳の痛い事実を伝える勇気を持つ。

これらのスキルは、書籍や研修で学ぶこともできますが、何よりも実践の中で意識的に使い続けることが上達への近道です。

3. 自身の「あり方(Being)」を整える

小手先のテクニック以上に重要なのが、あなた自身の「あり方」です。常に学び続け、多様な分野にアンテナを張り、人間的な魅力を高める努力を怠らないこと。経営者は、自分よりも視野が広く、人間的に信頼できる相手を求めています。

また、「疲れた」と感じたときは、無理をせず、自分自身の心と体をケアすることも「相談役」の重要な仕事の一部です。セルフケアを怠り、疲弊した状態では、良い問いを立てることも、相手に寄り添うこともできません。意識的に休息を取り、趣味の時間を持ち、自分自身が満たされた状態を保つこと。その安定した精神状態こそが、クライアントにとっての安心感につながるのです。

おわりに

「顧問業に疲れた」というあなたの言葉は、一つの時代の終わりと、新しい時代の始まりを告げる、誠実な叫びです。単なる物売りや機能提供としての顧問業は、いずれAIや安価な代行サービスに取って代わられるでしょう。しかし、経営者の孤独に寄り添い、そのビジョン実現を支える「相談役」という価値は、人間だからこそ提供できるものであり、その重要性は今後ますます高まっていきます。

「営業代行」という役割に疲弊した今こそ、自らの価値を再定義する絶好の機会です。短期的な成果の呪縛から自らを解放し、クライアントの未来を共に創る、唯一無二の「相談役」へ。その道は決して平坦ではないかもしれませんが、そこにはきっと、数字だけでは測れない、深いやりがいと誇り、そして人間的な喜びに満ちた世界が待っているはずです。

あなたのこれまでのご経験と、その中で感じた葛藤は、必ずや多くの経営者の心を照らす光となります。どうかご自身の価値を信じ、新しい一歩を踏み出してください。


By yous

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